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ラケシスとブリギッド(シレジア結婚前)

セイレーンに落ち着いたラケシス。
その夜は眠れず、気分を変えるために湯浴みに行く。
大地の剣は枕元に置いておいたまま。

季節はまだ秋のはずではあるけれど、シレジアの秋は温暖なアグストリアのノディオン育ちのラケシスにとっては名ばかりのものだった。それでもまだシレジアでは秋であるという。これから迎える冬はとても想像できたものではない。

ラケシスはベオウルフと結婚することになっていた。
その話を聞いたシグルドは「少しでも明るい話はあるほうがいい」と歓迎を見せた。
そのシグルドはセリスに救われている状態。
シレジアのラーナ王妃に報告をすると、「雪の降らないうちに」と言ってくれた。
ベオウルフは、「本当に、俺でいいのか?」と承諾をしたラケシスに驚いていた。
受けなければ去ると言ったから受けたのだ。
湯につかると、アグストリアの頃から様々なことが頭に浮かんでくる。
空には上弦の月が光る。
落ち着く結論は、「こうなったら、どこまでもシグルド様について行く」

改めて過去に思いをめぐらせていたラケシスは、人の気配に振り返る。
ブリギッドだった。
一瞬エーディンと彼女とどちらかわからなかったラケシスではあるけれど、シグルドによれば「全然似ていない」という。
エーディンの体はほっそりとしているが、ブリギッドの体は絵画に登場する女神のごとく豊満で、ラインは全然違う。
普段は白いバンダナで隠されているブリギッドの額は、このときばかりは顕になりウルの聖痕をラケシスにさらしている。
ラケシスはついその額を凝視してしまっていたことに気づき、謝る。
「ごめんなさい」
「大丈夫。気にしないで。これが額に出たのは今思い出すとエーディン達と別れてからだった。エーディンと再会してようやく意味がわかった。」
「こういうアザがあるのは私だけでないとわかっただけでも安心した。」
それより、とブリギッドは続けた。
「結婚するんですって?」
ブリギッドもまた、ラケシスの事情、一連のアグストリアの出来事を知らないわけはない。
彼女とラケシスは、まだ知り合って間もないものの。
エーディンはアグストリアの地でようやく生き別れの姉に再会したのに対して、ラケシスは最愛の兄を失った。エーディンを羨ましくないといったら嘘になる。
立場が一番近いのはシグルドだろうか。
ブリギッドは続ける。
「この町には、何回か来たことがある。」
わずかだが、アグストリアの人間も住み着いていると続けた。
この町は真冬でも凍らない港町だ。漁港として発展してきたから、世話になってきた。
「ラケシスは、あの人と出会ってどのくらいなのかしら?」
「え? どうして? ……一年と半年近くかしら」
「そうよね、本当はそれぐらいの時間が必要よね」
それにラケシスはミデェールのことを思い出す。
この人は、初めて「恋」というものを知ったのかしら?
その気持ちに動揺と戸惑いを覚えている。
しかしその一方で抑えきれない情熱にあふれている。
その彼女の心をとらえたミデェールはエーディンの騎士だった。
一見すると女性にも間違えそうなぐらいに線の細い。
この二人は出会ったばかりだというのにどのぐらいまで進んだ仲になっているのだろうと下世話なことを想像してラケシスは恥ずかしくなる。
この人の美しい体はあの人のものになるのかしら。
かつてはあれほどエーディンに執着していたのに、ブリギッドに出会った途端人が変わったようになってしまった。エーディンは今のところ素直に喜んでいるようにすら見える。単純なのかしら。それとも、ミデェールは同じ顔ならいいのかしら。そんなはずはないわ。身代わりなわけない。ベオウルフはエルト兄様とは似ていない。
「美しいなんて言われたの今まではじめてよ」
「そんな、信じられない。女の私ですら見とれてしまうぐらいきれいなのに。」
私は容貌でほめられたことなどかつてない。
それなりにほめられたことはある。服が似合っているとか。
私は自分の容貌のことぐらいはあきらめている。でも、あの人だってそれほど顔がいいわけでもないのだからいいのかもしれないわ。
「シグルド様とディアドラも、出会ってすぐに一緒になったのよ」
それでも、ずっと愛があった。
「ディアドラ、一度会ってみたかった。あまり皆話さないからな」
「私の兄は、結婚まで一度しか会わなかったそうよ。」
それでも愛はあったのだと、今では確信している。
ブリギッドは興味津々な顔つきでラケシスを見つめている。
「私は、結婚なんて考えたこともなかった。」
兄と別れる悲しさは、嫁ぐ喜びを上回るものだった。
結婚を決意したのも、兄がいなくなったからだ。
でも、自分でも信じられないぐらい平気でいる。
立ち直ったのか現実感がないせいなのか、もう心が死んでしまったからなのかわからない。
忘れてしまいたい気持ちと、忘れることの恐ろしさがないまぜになっている。
兄のような人がいたところで、きっと些細な違いに我慢ができなかったのかもしれない。
「私もよ、ラケシス。」

翌朝、ベオウルフが「随分ときれいになった」と褒める。
ラーナから送られたブーケが部屋に届いている。
白いバラと淡いピンクを中心に丸型に彩られている。
雪はまだ降らない。
セイレーンの教会からは海が見えた。
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