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デルムッド出産間近のラケシス

シレジア王国南西の港町のセイレーンは短くも美しい夏を迎えている。
街の人々は少しでも日光を浴びようと表を歩く。

ラケシスは、あと一ヶ月と少しで出産の予定となっていた。
もしも産まれる子供が男の子なら、エルトシャンに似た子がほしかった。その想いを抱くたびに、エルトシャンの端正な容姿とその青い瞳を思い出していた。
伯父と甥になるのだから、似てもおかしくはないのだ普通なら。
しかし、それは決して叶わぬ願いであることもラケシスはわかっていた。
エルトシャンの容姿は何もかもが彼の母親である王妃に生き写しだったのだから。
ラケシスの母親とは違うその人と。

ラケシスの夫となったベオウルフは、かつてラケシスと最初に会ったときに彼女とエルトシャンの気の強いところは似ていると言った。そして、妊娠がわかったときは「俺に似なければいい」と。
生まれてくる子が男の子なら、いっそこの人に似るのも悪くないのかもしれない。
多分、どんな境遇になっても生き抜くことができる。
少なくとも、自分に似なければいい。
二つの心などない子になれば。

ラケシスが妊娠して以来、ベオウルフはラケシスの訓練の時間の分をオイフェに割くようになっていた。そしてラケシスは、他の女性たち共々セイレーン城内で家事をこなすようになっていた。
もうそこには身分の上下もなかった。
夏の夜空には、天の川が流れている。今頃北東の町トーヴェでは、白夜が見られるという。
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